一般に定置網漁業は、漁業未経験者でも就業しやすい漁業と言われています。実際に当社でも、漁業を経験したことのない、いわゆるIターンの従業員も複数活躍中です。
体力と粘り強さ
定置網漁業は第一次産業であって、やはり肉体労働の側面は強くなります。現代では機械化も進んでいますが、力仕事は残っています。
たとえば、ブリやシイラあるいは鮮魚満載のカゴ(ザル)など10kg超の重量物を人力で次から次に持ち上げたり運んだりする必要があります。
他方で、網修理のように手先の細かい作業もあります。それに網修理は地道にコツコツやるしかありません。
周囲をよく見て働く
また定置網漁業は、当社の場合20名超の従業員で経営しているように、個人漁業と異なり同僚との協調性も大切です。自分の目の前の仕事に集中するだけでなく、周囲の状況にも目を向けて行動するほうが仕事がうまくいきますし、全体の安全にも役立ちます。
たとえば操業時に作業船(本船)が網を起こす際、複数のキャッチホーラーを1人1台で操作して網を持ち上げていきますが、その速さを周囲と合わせないと、特定のキャッチホーラーに重さが集中してしまい、上手く網を起こせなくなります。
労働災害
定置網の漁場は沿岸にありますので、陸地の見えない海上で暴風雨に巻き込まれることもありませんし、また基本的に1隻の漁船に複数人が乗船していて互いに助け合うこともできるという点で、漁業のなかでも比較的安心して働けます。
とはいえ機械化の反面、人力ではどうしようもない強さで稼働している機器が多々ありますので、思わぬところに危険が潜んでいます。また海上だと、どうしても波があるので、船上は不安定な作業環境になりがちです。残念ながら、当社でも今まで軽重さまざまな労働災害事故が発生しています。
また重量物を人力で持ち上げたり運んだりするため、作業姿勢に気をつけないと腰痛の危険性も高くなります。
自分の視界に周囲の同僚が入るように、また自分も同僚の視界に入る場所で作業することは、互いの安全確保と作業負担の分担につながります。
漁獲
定置網漁業は、魚群を探し回ったり追いかけ回したりせず、漁場に定置した漁網に魚群が入ってくるのを待ち構える漁法ですので、漁獲結果は自然任せな部分があります。
とはいえ漁網の設置の仕方がよくないと、入ってきてくれるはずの魚群も入ってくれません。海中に漁網を設置していると海中の微生物が付着して、それを放置しておくと定置網が海中に淀みをつくって魚群に避けられるようになります。また漁網を固定する碇やロープ類も放置しておくと流出したりゆるんだりして、定置網の形(網成り)がくずれてしまい、魚群が漁網のなかに溜まりにくくなります。
定置網を適切に管理して、上手く魚群に入ってきてもらう。
たしかに魚群が定置網に入るのは、もともとそこが好漁場であったり、たまたま水温や潮流の関係で魚群の通り道になったりしただけで、自然の恵みを得ているだけなのかもしれません。
しかし、暑さ寒さにかかわらず定期的に修理して交換して海中で漁網をきれいな状態に維持し、また碇やロープ類を適切な位置、状態に維持して、網成りを適切に保ったからこそ得られる漁獲です。
仕事の苦労が必ず報われるとは限りませんが、苦労してでも仕事をしておかないと、せっかくの好機も自分のものにすることができず、成果は上がりません。
定置網漁業の漁獲成果はたしかに自然任せではありますが、その自然の恵みを得るには漁業者の努力は欠かせません。